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マクロ経済ショック下で見直される、APACのリスク管理の枠組み
地政学的緊張や気候変動、世界的なインフレ、サプライチェーンの混乱などを背景に、マクロ経済ショックの発生頻度と影響の大きさが増しています。こうした傾向は各種データからも確認されており、金融機関にはこれまで以上に強固なリスク管理体制が求められています。
本稿では、アジア太平洋地域(APAC)の銀行や市場参加者が、この新たな不確実性の高まる時代にどのように対応しているかを考察します。
世界的な関税
2025年4月、米国が世界各国に対して広範な貿易関税を課すと発表し、市場に大きな影響を与えました。関税の導入自体は広く予想されていたものの、多くの金融機関はその影響の大きさを十分に織り込めていなかったとみられます。実際には、株式市場だけでなく、債券市場にも圧力が及びました。
DBS の元金融市場グループ最高執行責任者であり、現在は Deriv Asia X のマネジングディレクターを務めるサム・アーメド氏は、アジア太平洋地域の多くの銀行が採用している既存の線形モデリングでは、このような「ブラックスワン」ともいえる事象に十分対応できなかったと指摘しています。
同氏によれば、リスク管理担当者が考慮すべきリスクは三段階ありました。第一に、ドナルド・トランプ氏が2024年の米国大統領選挙で勝利すること。第二に、厳しい関税が大幅な市場変動を引き起こすこと。そして第三に、その結果として米国債が売却される可能性です。
「トランプ氏の選挙勝利に関しては、ほとんどの金融機関が一次および二次リスクを想定していました。しかし、三次のリスク、すなわち株式売却後に米国債へ資金が向かうという前提が、今回は成り立たなかった点は見落とされていました。その代わりに、5年物および10年物米国債は利回りの急上昇に伴い売却され、市場危機では珍しい、新興市場資産への選択的な資金流入が見られました」と、アーメド氏は述べています。
ストレステスト
ストレステストにおける過去のデータへの依存度が高かったことも、多くの銀行が新たな関税ショックに十分対応できなかった要因の一つです。
「ブラックスワンやファットテールが特徴となる環境では、過去のバリュー・アット・リスクや相関関係を基に将来の市場動向を予測することには限界があります。銀行は線形的な見方を見直し、事象の結果に不確実性を組み込んだ複数の確率的シナリオを導入する必要があります」とアーメド氏は述べています。
こうした点で有効な手法の一つが、モンテカルロ・シミュレーションです。多くの大手銀行ではすでに重要な財務機能においてモンテカルロ手法が用いられていますが、貿易関税ショックを経験したことで、リスクの捉え方そのものを見直す動きが広がっているといいます。
もっとも、ストレステストだけで将来の不確実性を完全に捉えることはできません。
アジア太平洋地域の銀行の流動性管理責任者は、「ストレステストは何度でも実施できますし、ポートフォリオに複数のストレスをかけることも可能です。しかし、次に起こる事象が具体的にどのようなものになるかを正確に予測することはできません。関税導入自体は広く認識されていましたが、その水準や影響の大きさまでは誰も把握できていなかったのです」 と述べています。
こうした課題は長年指摘されており、銀行がモデルの更新を進め、逆ストレステストやマクロプルーデンシャル分析といった手法を導入している背景の一つとなっています。
ブルームバーグのセルサイド・リスク製品グローバル責任者であるデイビッド・オールライトは次のように述べています。「一連のショックは、変化する市場環境や外部事象に対応できる、データ駆動型かつリアルタイムのリスク報告体制の重要性を改めて示しています」
規制当局からの要請を受け、銀行がストレステストの実施頻度を高めている点についても、前向きな動きとして評価されています。
日中の流動性
マクロ経済的ショックが頻発する中、危機時に資産を円滑に現金化できるかどうかに対する関心も高まっています。
この問題は、金利上昇を背景に米国でシリコンバレー銀行(SVB)の取り付け騒ぎが発生して以来、数年にわたり注目されてきました。2023年3月に同行が破綻したことは、米国史上3番目に大きな銀行破綻として記録されています。
SVBの破綻は、銀行システム全体にストレスと不確実性をもたらし、その後のクレディ・スイスの経営危機にも影響を及ぼしました。
「銀行破綻は、必ずしも支払能力の問題とは限りません。場合によっては、資金移動や決済といった運用面の問題である場合もあるのです」と、OCBCの資産負債管理グローバル責任者であるローランド・ホー氏は述べています。「銀行は、自らがHQLA(高品質流動性資産)とみなすものを、義務履行のために、たとえ日中の取引であっても、容易に現金化できるという確信を持つ必要があります」
これはアジア太平洋地域の多くの規制当局にとって、重要な検討課題となっています。8月末、シンガポール金融管理局(MAS)は新たな流動性リスク管理ガイドラインを発表し、規制当局が求める詳細な要件を明示しました。
ブルームバーグのアライトはまた、次のように述べています。「市場が強化された流動性要件に適応するにつれ、リアルタイムの行動リスクシナリオをモデル化することが、リスク管理全体の強化に不可欠となるでしょう」
OCBCは自社の流動性管理を強化するため、ブロックチェーン技術を活用し、JPモルガンと新たな短期米ドル資金調達メカニズムを構築しました。
ホー氏は「米国市場が開く前であっても、必要が生じた場合には米ドル資金調達が可能となります」と説明し、「これは当社のリスク管理にとって重要であり、規制当局が抱える懸念に対処するためにも意義があります」と述べています。
金利ショック
金利の急激な変動は、リスク管理部門によるエクスポージャーの評価方法にも変化をもたらしています。多くの金融機関が保有資産のデュレーションを短縮する動きが見られます。
「金利が急上昇した場合、資産評価額に影響が及ぶ可能性があります」とホー氏は述べ、「そのため、金利リスクのデュレーションを調整すると同時に、引き受ける想定元本の規模も管理しています」と説明します。
金利上昇には二面性があります。資産評価に下押し圧力を与える一方で、純金利収益を押し上げる効果もあります。
「当社では、金利変動の影響を複数のリスク指標で分析し、個別ではなく全体を俯瞰した形で管理しています。これにより、総合的なリスクプロファイルの改善を図っています」とホー氏は述べています。
金利ショックは、固定収入資産に対する回収目的保有会計の採用を促進する可能性もあります。
「当社が購入する債券の一部には、その他の包括利益を通じた公正価値会計を適用していますが、これにより、銀行の資本、特に普通株式Tier1資本に影響を与える公正価値準備金の変動が生じます。回収目的保有会計を適用することで、この変動性の一部を抑えることが可能となります」とホー氏は説明します。
もっとも、取引実態と整合している必要があります。回収目的保有会計は、売却ではなく、定期的なキャッシュフローの回収を目的として保有される資産に限って適用されるべきです。
銀行にとってのもう一つの危険は、金利上昇により預金者が資金を他行に移し、資金調達が逼迫するリスクもあります。特に日本の地方銀行では、この点に対する懸念が高まっています。
東京に拠点を置くリスク管理コンサルティング会社、RAFラボラトリーの最高経営責任者である大山剛氏は、「地方の中小銀行では信用力の高い銀行や、より高い預金金利を提示する銀行への預金流出に直面しています。これは多くの金融機関にとって重大な課題であり、新たな投資機会を模索する必要に迫られる可能性があります」と述べています。
一方で、高利回りを求める動きは、さらなるリスクを伴う可能性があります。
「市場は現在好調に見えるかもしれませんが、状況は容易に急変する可能性があります。注意が必要な局面です」と、同氏は指摘します。
構造的変化
銀行が直面しているのは、短期的な市場の変動だけではありません。最近のマクロ経済の変化が、より広範な構造的変化の兆候ではないかとも考えられています。
金融市場全体を見渡すと、地政学的な分断を背景に、米ドルの利用が準備資産としてだけでなく、決済通貨としても徐々に低下しつつあるとの見方があります。一部の国々では自国通貨の利用を促進する動きも見られます。
もっとも、米ドルには依然として重要な強みがあります。それは米国市場外の投資家間でも広く取引されている点です。記事冒頭で引用した流動性管理責任者は「人民元建てオフショア取引(CNH)において、中国が買い手または売り手として関与していない事例はこれまでのところ見受けられません」と指摘します。
「循環的にはドルが弱含む局面があっても、構造的な代替通貨が存在するかという点では、現時点では確信が持てません。経済的に持続可能なドル代替通貨は何かと問われれば、現状では存在しないのです」と述べています。 ドイツ銀行でアジア地域のグローバル新興市場および債券・為替取引を統括するアショク・ダス氏も、ドルの市場の厚みに匹敵する市場は他には存在しないと指摘します。
「地政学的リスクが以前より高まったからといって、人々がすぐにドルを手放すことはないでしょう」 と同氏は述べています。一方で、変化の兆しがあることも認め、リスク管理担当者はこの点を検討し始める必要があるかもしれないと指摘します。
「米ドル建て資産を保有する企業は、そのエクスポージャーを分散化またはヘッジする傾向が強まっています。同時に、特定の国では、自国通貨建てでの請求を望む動きもあります。これは脱ドル化というより、市場の分断が進んでいる状況といえるでしょう」とダス氏は述べています。
同氏はさらに、こうした動きが、これまで中央集権的な適格担保プールに依存してきた金融システムにとって、「大きなショック」となり得ると指摘しています。
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